社内でAIを入れて半年。経営会議の報告資料に「全社の利用率が上がりました」「AIで自動化した工程が増えました」と書いた——あるいは、これから書こうとしている。心当たりはないでしょうか。
先に結論を書きます。利用率・アカウント数・自動化した工程の数は、成果ではありません。活動量です。 「どれだけ動いたか」は教えてくれても、「会社の外に何が出て、何が変わったか」は教えてくれません。
活動量を報告すること自体は悪くありません。危ういのは、それを成果の欄に書くことです。初年度は通ります。困るのは翌年です。
※本記事は当社の考え方を整理したものです。AI導入の報告のされ方について統計的な調査は持っていないため、数字ではなく「どの指標で何が言えて、何が言えないか」の切り分けを中心に書きます。
理由は単純で、早く出て、必ず上がるからです。
アカウントを配れば、利用率は上がります。研修をすれば、もう一段上がります。自動化の工程は、作れば作っただけ増えます。どれも導入した側の努力がそのまま数字に映るので、報告する人にとっては扱いやすい指標です。
聞く側にとっても分かりやすい。「売上への影響はまだ分かりません」と言われるより、「利用率が上がっています」と言われたほうが、投資が進んでいる感じがします。
つまり活動量の指標は、報告する側と聞く側の両方にとって居心地がいいんです。だから、成果の欄に入り込みやすい。
活動量を成果として報告すると、翌年に三つのことが起きやすくなります。
利用率には天井があります。全員が使うようになれば、それ以上は上がりません。初年度に伸びた数字を成果として報告していると、二年目は「横ばい」と報告するしかなくなります。
そこで聞かれるのが「で、AIに払っている費用は、何に効いているの?」という質問です。初年度に答えを先送りした問いが、二年目に戻ってきます。
利用率が評価されると分かれば、現場は使う回数を増やします。試しに質問を投げる、すでに終わった仕事をAIでもう一度なぞる。利用率は上がりますが、仕事は変わっていません。
自動化した工程の数も同じです。数が評価されるなら、小さく分けて数を増やすほうが得になります。外に何も出ていなくても、工程は増えていきます。
逆のこともあります。ある部署が、毎月の報告書づくりの一工程をまるごとAIに置き換えて、締め日の残業がなくなった。ところが利用回数は少ないので、利用率の表では目立ちません。
活動量だけで見ていると、いちばん成果に近い変化ほど、報告に載らないことがあるんです。
社内でAIを使う人が増えても、会社の外に出る量が変わらなければ、売上も顧客の反応も動きません。
考えてみてください。営業の全員がAIで提案書の下書きを作るようになったとします。下書きは速くなりました。でも、提案する件数が変わらず、提案の中身も変わらなければ、受注は変わりません。空いた時間が社内の作業に吸われていれば、外から見た会社は何も変わっていないことになります。
この「効率化しても売上が動かない」構造は、AIで作業時間は減ったのに、売上が変わらないのはなぜかで詳しく書きました。利用率は、この回路の入り口しか見ていない指標です。
つまり、使う人の割合は成果が出るための条件のひとつであって、成果そのものではない、ということです。
同じことは、AI導入を支援する側の売り方にも当てはまります。
「AIエージェントを何十体動かしています」「自動化した工程は何百あります」。こうした規模の数字は、提案書の冒頭に置かれやすいものです。当社自身も自社のマーケティングをAIエージェントで運用していますが、その体数を成果として語ることはしていません(運用の仕組みは/how-we-work/で公開しています)。
理由は、体数も工程の数も、活動量だからです。エージェントが何体あっても、それが外に出る何を増やしたのかが分からなければ、発注する側の判断材料にはなりません。体数は、細かく分ければいくらでも増やせます。
支援会社から規模の数字を出されたら、次のように聞き返してみてください。
答えが規模の話に戻ってくるなら、その会社は活動量を成果と考えている可能性があります。支援会社の選び方そのものは、AIマーケティング支援の会社は、何を見て選べばいいのかにまとめています。
活動量を消す必要はありません。成果の欄と、活動量の欄を分けるだけです。
報告書の行の形にすると、たとえば次のようになります。
| 欄 | 書く行の例 | この欄で言えること |
|---|---|---|
| 成果 | AIを使って外に出せた施策の本数(前の期と比べて) | 会社の外に出る量が変わったか |
| 成果 | 書き換わって、実際に一周回った業務手順の本数 | 担当者が替わっても残る変化があるか |
| 成果 | 締め日・納期・返信までの時間で、短くなったもの | 顧客や社内の相手から見て何が変わったか |
| 確認 | 外に出る前に人が確認している場所と、そこで止めた件 | 品質と事故をどう抑えているか |
| 活動量 | 利用率、アカウント数、自動化した工程の数 | 道具が配られ、触られているか |
| 未確認 | 売上への影響(判断できる時期の見込み) | まだ言えないことを、言えないと書く |
ポイントは三つあります。
一つ目は、成果の欄を「外に出たもの」で書くことです。施策の本数の数え方はAI化の費用対効果は、削減時間ではなく「外に出せた施策の本数」で測るで、手順の数え方は生成AI研修の効果は、満足度アンケートでは測れませんで書いています。
二つ目は、「確認」の欄を置くことです。AIの導入で経営層が本当に気にしているのは、成果と同じくらい「変なものが外に出ないか」です。どこで人が止めているかを書いておくと、利用を広げる判断が通りやすくなります。確認の置き方はAIが書いたものは、誰がどこで確認するのかを参照してください。
三つ目は、「未確認」の欄を正直に埋めることです。売上への影響は、季節や商品や景気が混ざるので、AI導入だけを切り出すのはまず難しい。分からないことを分からないと書いておけば、翌年に「去年の報告は何だったのか」と言われずに済みます。
次の報告資料をつくる前に、三つだけやってみてください。
利用率が上がったことは、悪い知らせではありません。道具が届いた、という知らせです。ただ、それは報告の一行目に置くものではなく、成果の下に添えるものだと当社は考えています。
報告の欄の分け方や、自社で何を成果として数えるかを一緒に整理したい場合は、お問い合わせからご相談ください。