生成AIの社内ルールに書くのは、ツールの可否ではなく「このツールに何を渡してよいか」です

生成AIの社内ルールを作って配ったのに、現場からの「これは使っていいんですか」という質問が減らない。よくあるご相談です。

原因は、ルールの精度ではありません。書いてある単位のほうです。

多くのルールは「生成AIの業務利用は許可制とする」「業務で利用してよいのは会社が指定したツールに限る」というように、ツール単位で可否を書いています。ところが現場が手を止めるのは、ツールを選ぶ場面ではありません。目の前にある文書を、そのツールに貼ってよいかどうかで止まっています。

ですから、ルールに書くべきなのは**「どのツールに、どの情報までなら渡してよいか」**です。ツール名と情報の区分を掛け合わせた表になります。

前提として、ルールに何を載せるかという話は社内のAI利用ルールは、何をどこまで決めれば足りるのかに書きました。ここではその続きとして、「渡してよいデータの線」を実際に紙に落とすところだけを扱います。なお本記事は2026年8月時点の整理で、個別の法令解釈には触れません。

なぜ「このツールは可、あれは不可」では答えが出ないのか

同じ製品名でも、契約と設定によって扱いが変わるからです。

個人が無料で使っているアカウントと、会社が法人向けの契約を結んで管理者が設定した状態とでは、入力したデータの扱いも、誰がログを見られるかも違います。製品名だけを見て「可」と書いてしまうと、社員は個人のアカウントで開いて「会社が認めたツールだから」と貼ります。ルールとしては、むしろ危ない方向に働きます。

もうひとつ。現場の質問は、必ず具体物を持ってやってきます。顧客名が本文に残ったままの問い合わせメール。取引条件が入った見積書。人事評価の下書き。**ツールの可否表には、この「何を」の列がありません。**だから、表を見ても答えが出ない。

つまりツール単位の○×は、ツールが増えるたびに行が増えるだけで、判断できる場面は増えないのです。

表にすると、どういう形になるのか

形だけをお見せします。中身は会社ごとに違うので、当社のルールの全文をそのまま載せることはしません。

縦に並べるのは、情報の区分です。

**横に並べるのは、会社が実際に使っているツールです。**ここは実名で書きます。しかも製品名だけでなく、どの契約で使っているところまで書く。加えて、実態として存在するなら「個人のアカウント」も一列として置いてください。存在しないことにすると、そこでの事故だけがルールの外に出ます。

セルに書くのは○×ではなく、渡し方です。「そのまま渡してよい」「固有名と金額を伏せれば渡してよい」「渡さない」。この三段にするだけで、現場の質問はかなり減ります。多くの場面は、二番目に落ちるからです。

そして表の上に、基準を一行だけ置きます。**「間違えたまま外に出たとき、取り返しがつくか」。**表に載っていない場面が来たときは、社員がこの問いを自分で当てはめます。表は判断を代行するものではなく、頻出の場面を先に答えておくものだと考えると、置き方がはっきりします。

ここは正直に書きます。**どの区分をどのセルで可とするかの正解を、当社が全業種ぶん持っているわけではありません。**医療、金融、士業、自治体の受託では、個別の規制や契約上の制約が先に来ます。項目の形はこの記事の通りで構いませんが、埋めた中身は必ず社内の法務や顧問の先生を通してください。

実名で書くと、何が起きるのか

更新の仕事が発生します。これが実名を避けたくなる理由です。

それでも実名で書く価値があるのは、実名で書いて初めて、**「ここに載っていないツールは、申請してから」**という線が引けるからです。抽象的に「信頼できるツールを使うこと」と書いたルールでは、この線が引けません。誰も申請しないまま、各自が良いと思ったものを使います。

そして、更新を決めないまま実名で書いた表は、半年ほどで嘘になります。ツール側に新しい機能が入る。契約しているプランが変わる。部署が新しいツールを入れる。表のほうは配った日のまま止まっている。**古い表は、現場から「見なくていいもの」として扱われます。**一度そうなると、作り直しても読まれません。

ですから、表と一緒に決めるのは次の三点です。

あわせて、表の下に「いつ時点のものか」を書いておいてください。日付があるだけで、現場は古さを疑えます。疑えれば、聞きに来ます。聞きに来れば、更新の機会になります。

明日、何から手をつけるか

規程の文面を書き直す前に、次の順で進めるほうが早く着きます。

当社自身は、マーケティング(集客・メール配信・SNS・計測)をAIエージェントで運用しています。外に出る直前に必ず人の承認を挟む設計で、AIが単独で公開・配信することはありません。何を任せ、何を人が持つかの線引きは私たちの働き方で公開しています。

表は、配って終わりではありません。現場が自分の手元の文書を当てはめられるようになって、初めて動きます。ルールの形はできたが、現場が使えるところまで落ちない——という段階でしたら、企業向けAI研修でその部分を扱っています。

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