人事のAIは、求人票までは任せてよく、評価コメントは任せてはいけない

人事でAIを使うときに、最初に決めるべきなのは「どのツールを入れるか」ではありません。その文章が、最後に誰の名前で人に渡るかです。

求人票の下書き、面接メモの整理、評価コメントの文案。並べると、どれも「文章を作る作業」に見えます。ところが人事の仕事は、外から見えるより境目がはっきりしています。同じ文章作成でも、下書きで終わるものと、そのまま人の処遇に届いてしまうものがあるからです。

先に結論を書きます。求人票と面接メモは任せてよい。評価・合否・給与に関わる文章は、下書きであっても任せ方を変える必要があります。

なぜ求人票の下書きは、任せてよいのか

求人票は、人事の中ではAIと相性がよいほうの仕事です。理由は精度ではなく、間違えたときに取り返しがつくからです。

求人票は、公開する前に必ず人が読みます。募集要項の条件は人事が確定させていますし、掲載媒体の審査も入ります。文面がずれていれば、外に出る前に気づける構造になっている。

そして求人票には、書き手が毎回ゼロから考えるべきでない部分があります。仕事内容の並べ方、応募者が知りたい順番、読みにくい長文の割り方。ここは過去の自社の求人票を材料にすれば、下書きの質がそのまま上がるところです。

面接メモも同じ側にあります。面接中に取った断片的なメモを、項目ごとに整理し直す。話した内容を要約する。ここまでは、後から人が原本と突き合わせられます。

つまりこの2つは、AIが作ったものが誤っていても、次の工程で止まる仕事です。当社がAIに任せるかどうかを決めるときの基準もここで、詳しくは社内へのAI導入は、どの業務から手をつけるべきかに書きました。

評価コメントをAIに書かせると、何が起きるのか

問題になるのは評価です。

人事評価のコメントをAIに下書きさせる。上司が目を通して直す。手順だけ見れば、求人票と変わらないように思えます。実際、負担の大きい作業ですから、ここを楽にしたい気持ちはよく分かります。

ところが、評価コメントには他の文章にない性質があります。本人に渡るという点です。

考えてみてください。評価面談で渡されたコメントを読んだ社員が、「これ、AIが書いたものですよね」と感じたとします。文面が滑らかすぎる、去年と同じ言い回しがある、自分がやった仕事の名前が一つも出てこない。理由は何であれ、そう思われた時点で起きることは一つです。

評価そのものへの信用が落ちます。

しかも、落ちるのは今回の評価だけではありません。「この会社は、自分を見ていない」という結論のほうが残ります。人事評価が果たしている役割は、点数を伝えることではなく、見ていると伝えることだからです。ここが壊れると、取り返すのに時間がかかります。

これは「AIの文章が下手だから」ではありません。その文章が誰の名前で渡るかの問題です。評価コメントは、上司本人が見たことを本人に伝える文章なので、代筆の余地がもともと小さい。

合否の判断と給与の決定も、同じ理由で外側に置きます。応募者に不採用を伝える、等級を決める、昇給幅を決める。どれも、判断した理由を人が説明できなければならない場面です。**説明を求められたときに「AIがそう出したので」としか言えない状態を作らないこと。**ここが線です。

任せてよいものと、そうでないものを並べると、こうなります。

仕事任せ方
求人票の下書き任せてよい。人が確定させてから公開する
面接メモの整理・要約任せてよい。原本と突き合わせられる範囲で
面接の質問案づくり任せてよい。聞く項目は人が決める
評価コメントの文案任せない。上司が書いたものを整える用途にとどめる
合否・等級・昇給の判断任せない。理由を人が説明できる形を崩さない

境目は「文章がうまいかどうか」ではなく、誤ったときに誰が責任を説明するかで引かれています。確認をどこに置くかという設計そのものは、AIが書いたものは、誰がどこで確認するのかに整理しました。

応募者の情報を、AIに渡してよいのか

人事のAI活用でもう一つ必ず出るのが、個人情報の扱いです。

ここは法令の解釈をこの記事でするべきではありません。応募者の情報をどの範囲で扱えるかは、自社が示している利用目的、就業規則、契約している人材サービスの規約によって変わります。判断は必ず人事と法務、必要なら顧問の専門家に確認してください。

そのうえで、社内で線を決めるときに使える考え方だけ書きます。

判断の材料になるのは、次のような点です。

このうち最後の一つは、実務でいちばん効きます。**名前が要らない作業から名前を外していく。**これだけで、扱いに迷う場面はかなり減ります。

社内で渡してよいデータの線をどう決めるかは、人事に限らず共通する話なので社内のAI利用ルールは、何をどこまで決めれば足りるのかにまとめています。

明日、何を決めればいいのか

人事でAIを使い始めるときは、この順で進めると迷いが減ります。

  1. 人事の作業を、文章が誰に届くかで並べ替える——社外の応募者に届くもの、社内の本人に届くもの、社内で完結するもの
  2. 本人の処遇に関わるものを、先に外す——評価・合否・等級・昇給。ここは今回は触らないと決めてしまう
  3. 残ったものから、毎週発生している作業を選ぶ——求人票、面接メモ、募集要項の更新あたりが残るはずです
  4. その作業で扱う情報に、名前が要るかを確認する——要らないなら外す。要るなら人事・法務に確認してから進める
  5. 公開・送信の直前に、人が見る場所を決める——誰が見るか、何を見るかまで決めます

この形にすると、着手できる範囲は狭く見えます。狭くて構いません。人事でAIの評判を落とすのは、精度ではなく「そこまでやるのか」と社員に思われることのほうだからです。

社内で反対が出たときも、外した範囲を先に示せると話が早くなります。「評価と合否には使いません」と最初に言えるかどうかで、受け取られ方がまったく違います。

誰にどの作業から触ってもらうかは、研修の人選と同じ論点になります。そちらは生成AI研修には、誰を出すべきなのかに書きました。

当社の場合

当社は、自社のマーケティング(集客・メール配信・SNS・計測)をAIエージェントで運用しています。任せるか人が持つかは「間違えたときに取り返しがつくか」で分けていて、外に出る直前には必ず人の承認を挟んでいます。AIが単独で公開や配信をすることはありません。この線の引き方は私たちの働き方で公開しています。

運用してみて分かったのは、詰まるのは技術ではなく線引きのほうだ、ということでした。人事はその中でも、線を引き間違えたときの損が大きい領域です。

なお、当社は人事制度そのものの専門家ではありません。この記事で書いているのは、AIを業務に入れるときの一般的な判断の枠組みであって、個別の制度設計や法令の解釈ではありません。そこは自社の人事・法務の判断が先に立ちます。

どの業務から触るか、どこに確認を置くかの段階からご相談いただけます。企業向けAI研修をご覧ください。

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