「会議の文字起こしをAIにやらせたい」という話になると、まず始まるのが製品の比較です。Zoom の録音機能、Google Meet の文字起こし、Notta のような専用ツール。どれがいちばん正確に書き起こせるか、という順番で調べ始める方が多いと思います。
ところが、導入したあとに問題になるのは、ほぼ精度ではありません。
止まるのは、たいてい別の場所です。録音したデータがどこに置かれるのかが分からず情報システム部門で止まる。社外の人が同席する会議で使えず、結局いちばん議事録が要る会議だけ対象外になる。要約は出るようになったのに、誰も直さないまま配られて信用を落とす。
つまり、選ぶときに比べるべきは書き起こしの正確さではなく、その道具を自社の会議の回し方に載せられるかのほうです。この記事では、製品を決める前に社内で確認しておく3点を整理します。
(本記事は2026年8月時点の一般的な考え方を整理したものです。各製品の仕様や提供範囲は変わりますので、契約前の確認は各社の公式資料と、自社の情報システム部門が正になります。)
先に、精度の話を片づけておきます。
この数年で、日本語の書き起こしはどの製品でも実用の水準に届いています。専門用語や社名を取りこぼすことはありますが、それはどの製品を選んでも同じように起きる種類の間違いです。読めば分かる程度の崩れであって、会議の結論がひっくり返るようなものではありません。
そして、間違いの出方には共通の傾向があります。よく聞き取れるのは、静かな部屋で、ひとりずつ話している会議です。崩れるのは、会議室にスピーカーフォンを1つ置いて何人かが同時に話す会議、専門用語と社名が飛び交う会議、そして声が小さい人が混ざる会議。
ここが大事なところで、**これは製品を替えても直りません。**直すとしたら、マイクを人数ぶん用意する、会議の進め方を変える、といった会議側の対処になります。比較表の精度の欄をいくら眺めても、この差は埋まらないわけです。
だから、精度は「実用に足りているか」を一度確かめれば十分です。そこで時間を使うより、次に挙げる3点を先に決めたほうが、導入はうまくいきます。
いちばん最初に確認するのは、ここです。
会議の音声は、社内でもかなり機密性の高いデータです。人事の相談、取引条件の詰め、まだ公になっていない案件。それが文字になって検索できる形で残るというのが、文字起こしAIを入れるということの実体です。
確認する項目は、そう多くありません。
この4つは、稟議に入る前に答えを持っておくべきものです。特に4つめは見落とされやすいところで、録画・文字起こしの保存先が全社共有のフォルダになっていたという形で後から見つかることがあります。製品の設定というより、自社の共有設定の問題として出てきます。
社内で渡してよいデータの線をどう引くかは、文字起こしに限らず共通するので社内のAI利用ルールは、何をどこまで決めれば足りるのかにまとめました。文字起こしを入れる前に、その線が引けているかを見てください。
2つめが、ここです。そして、実務でいちばん引っかかるのがここです。
考えてみてください。議事録がいちばん要るのはどんな会議でしょうか。社内の定例ではなく、取引先との打ち合わせではないでしょうか。言った言わないが起きるのは、たいてい社外との会議です。
ところが、社外の人が入る会議を録音・文字起こしするには、相手の同意が要ります。ここで多くの会社が止まります。
止まる理由は法律より運用のほうです。毎回の会議の冒頭で「記録を取らせていただきます」と切り出す人がいない。相手が難色を示したときにどうするか決まっていない。相手先の情報管理の規程で録音が禁じられている場合がある。結果として、「社外との会議では使わない」という運用に落ち着きます。そして、いちばん欲しかった議事録は手書きのまま残ります。
これは製品の欠陥ではなく、決めていないことが原因です。ですから先に決めておきます。
正直に書くと、ここを決めきれずに社内会議だけで使っている会社は少なくありません。それ自体は悪い選択ではありません。ただ、社内限定で使うと決めたなら、期待する効果もそのぶん小さくなるということは、稟議の時点で共有しておいたほうがいいと思います。あとから「思ったほど楽にならなかった」と言われるのは、この行き違いが原因のことが多いです。
3つめが、出てきたものを誰が見るか、です。
文字起こしと要約が自動で出るようになると、こう考えたくなります。「これをそのまま共有すれば、議事録を書く手間はなくなる」。
ところが、これはうまくいきません。理由は精度ではなく、議事録と文字起こしが別物だからです。
文字起こしは、会議で起きたことをそのまま写したものです。脱線も、途中で取り下げた案も、言い間違いも、全部入っています。一方で議事録は、決まったことと、誰がいつまでに何をするかを抜き出したものです。前者を配っても、読む側は結局自分で探すことになります。長い記録を渡された側の負担は、むしろ増えます。
さらに危ないのが、要約をそのまま配ることです。要約は、会議の中で結論が明示されなかった論点を、それらしく埋めてしまうことがあります。「〜の方向で合意」と書かれていて、実際には保留だった。この種の食い違いは、社外に出たときに取り返しがつきません。
ですから、置くべきなのは確認の場所です。**会議の中身が分かっている人が、外に出る前に一度見る。**見る項目は決めておきます。決定事項、担当者、期限、金額と日付。逆に、言い回しの自然さは見なくて構いません。
全部を読み直すルールは続きません。続かないルールは、無いのと同じか、無いより悪い。「確認したことになっている」状態ができるからです。確認をどこに置くかという設計そのものはAIが書いたものは、誰がどこで確認するのかに整理しています。
営業部門での使い方として議事録を位置づけるなら、営業部門のChatGPT活用は、提案書・議事録・メールの3つに絞ったほうがいいも合わせて読んでみてください。
製品の比較表を開く前に、社内でこの順に確認してください。
この順で見ていくと、そもそも新しい製品を買わずに済むことも珍しくありません。**道具を増やす前に、決めていないことを決める。**手順としてはこちらが先です。
当社は自社のマーケティング(集客・メール配信・SNS・計測)をAIエージェントで運用しています。任せるか人が持つかは「間違えたときに取り返しがつくか」で分けていて、外に出る直前には必ず人の承認を挟んでいます。AIが単独で公開や配信をすることはありません。この線の引き方は私たちの働き方で公開しています。
運用してきて実感しているのは、AIが作ったものはそのまま配れる形では出てこないということです。素材としては十分でも、そのまま渡せる成果物ではありません。文字起こしも同じで、素材が自動で手に入るようになったぶん、「どこを削って、誰が確かめてから配るか」を決める仕事のほうが重くなります。
なお、当社は文字起こしツールの販売代理や導入支援を専門にしている会社ではありません。ここで書いているのは、AIを社内の業務に載せるときの一般的な判断の枠組みであって、個別の製品の仕様や自社環境での挙動の保証ではありません。
どの業務から手をつけるか、どこに確認を置くかの段階からご相談いただけます。お問い合わせからご連絡ください。