AIのモデルが替わるたびに、社内の手順書を全部見直す必要はありません。
見直しが追いつかないのは、担当者の手が足りないからではありません。手順書に、替わるものを書いてしまっているからです。 モデル名、ボタンの位置、メニューの名前。こうしたものは、提供元の都合で毎月のように変わります。
一方で、替わらないものがあります。「この出力は、どこを見れば正しいと言えるか」という確かめる点です。手順書の中心にこちらを置いておけば、モデルが入れ替わっても、直すのはごく一部で済みます。
この記事では、手順書に書くもの・書かないもの、そして新しいモデルが出たときに社内で誰が何をどの順で確かめるかを整理します。
※本記事は2026年10月時点の情報にもとづいています。特定のモデルの性能比較はしません。製品の優劣で手順書を組むと、それ自体がすぐに古くなるからです。
このひと月ほどを振り返ってみてください。
9月下旬から10月にかけて、Anthropic・OpenAI・Google の各社が、上位モデルから小さく安いモデルまで、立て続けに新しいものを出しました。当サイトでも、そのたびに速報を書いています(たとえば上位モデルが値下がりした回、普段使いのモデルが替わった回、ChatGPTの答えの形が変わった回、企業向けに開放された回)。
社内の手順書に「〇〇というモデルを選び、右上のボタンから……」と書いていた会社は、このひと月で何度も書き直す羽目になったはずです。そして多くの場合、書き直されないまま残ります。
手順書が古くなる原因は、怠けではありません。変わる速さの違うものを、一枚の紙に混ぜて書いていることです。
| 変わる速さ | 例 | 手順書に書くか |
|---|---|---|
| 速い(毎月) | モデル名、画面の配置、メニューの名前、プランごとの機能 | 書かない |
| 中くらい(半年〜年) | どのツールを使うか、契約しているプラン | 別紙の一覧に書く |
| 遅い(ほぼ変わらない) | 業務の目的、確かめる点、誰が承認するか、渡してはいけない情報 | 手順書の本体に書く |
つまり、手順書を長持ちさせるコツは、上の段を本体から追い出すことです。
たとえば「取引先への提案メールの下書きをAIで作る」という手順なら、本体に書くのは次のようなことです。
どのモデルを使っても、確認項目は変わりません。モデルが賢くなっても、金額が合っているかを人が見る理由はなくならないからです。
「このボタンを押す」「このモデルを選ぶ」は、本体に書きません。
どうしても必要なら、本体から切り離した別紙にします。別紙は短く、日付を入れ、古くなったら捨てて作り直す前提で置きます。本体と別紙を分けておけば、画面が変わっても直すのは別紙だけで済みます。
社内マニュアルの更新がなぜ止まるのかは、社内マニュアルをAIで作る前にでも書きました。止まるのは書く手間ではなく、直す人が決まっていないことのほうです。
ツールの名前は、モデル名ほどは変わりませんが、まったく変わらないわけでもありません。
おすすめは、手順書の本体には「社内で許可されているAIツール」とだけ書き、具体的な名前は利用ルールの一覧に寄せることです。ツールごとに何を渡してよいかを表にしておく考え方は、生成AIの社内ルールに書くのは、ツールの可否ではなく「このツールに何を渡してよいか」ですにまとめています。
手順書から変わるものを追い出したら、次は「変わったときの段取り」を決めておきます。決めていないと、新しいモデルが出るたびに、詳しい人が個人の判断で切り替え、ほかの人は知らないまま、ということが起きます。
当社が自社の運用で毎回やっている順番は、次のとおりです。
役割は、大げさな体制にしなくて構いません。
| 役割 | やること |
|---|---|
| 確かめる人(一人) | 公式発表を読み、価格・提供範囲・データの扱いの変化を要約して共有する |
| 手順の持ち主(業務ごと) | 自分の手順の確認項目が、新しいモデルでも通るかを試す |
| 決める人 | 切り替えるか、待つかを決める。待つ判断も記録に残す |
ここで大事なのは、「待つ」も立派な判断だということです。 出たばかりのモデルは、実務での検証が済んでいません。いまの手順で困っていないなら、急いで切り替える理由はありません。
正直に言うと、これを測る決まった物差しはありません。当社が使っているのは、次の簡単な問いです。
この4つに答えられれば、次のモデルが出ても、手順書の本体はほぼそのまま使えるはずです。
逆に、ここで分からないこともあります。モデルの入れ替わりで出力の癖が変わり、確認項目そのものを足す必要が出ることもあるからです。たとえば、答えが文章ではなく表やボタンで返ってくるようになれば、「表の数字が元資料と合っているか」という項目が要ります。これはモデルが出てみないと分かりません。だからこそ、段取りの中に「確認項目が通るかを試す」工程を入れておくのです。
当社は自社のマーケティングをAIエージェントで回していますが、手順の中心に置いているのは、モデルの名前ではなく、外に出す前に人が見る点です(運用の考え方は/how-we-work/で公開しています)。モデルは今後も替わり続けます。替わることを前提に、手順書の形を決めておくほうが、結局は手間がかかりません。
社内の手順をAIに合わせて書き換えるところから一緒に進めたい場合は、企業向けAI研修の内容をご覧ください。